JICAボランティアからのお便り(2022年度2次隊)
印刷 ページ番号1040164 更新日 2025年1月8日
2022年度2次隊 インドネシアからのお便り 伏見 健太郎(ふしみ けんたろう)さん(ソーシャルワーカー)
伏見さんの活動報告
初めまして。
2022年12月から2024年11月までJICA海外協力隊としてインドネシアに派遣されていた伏見健太郎(ふしみけんたろう)と申します。ソーシャルワーカーとして約2年間、インドネシアのソロという都市で活動していました。
インドネシアは人口約2億8,000万人(世界第4位)で、日本の5倍の広さを有する島国です。人口の9割ほどがイスラム教徒で、公用語はインドネシア語です。
赤道直下に位置しているため、常夏の気候が特徴です。私が日本を出発したのは12月で、ちょうど冬真っ盛りでしたので、インドネシアに到着した際、その暑さに身体がびっくりしたことを今でも覚えています。
四季がある日本とは異なり、インドネシアは雨季と乾季の二季しかありませんが、季節によって採れる果物や野菜も異なります。私のおすすめは、雨季が旬のドリアンです。ドリアンは「果物の王様」とも呼ばれ、その強烈な臭いが原因で敬遠されがちなフルーツです。インドネシアでは雨季になると、ドリアンを売る車が至るところに現れ、気軽に購入することができます。せっかくなので、私もドリアンに初挑戦しました。
ドリアンの皮は棘だらけで、皮を取るだけでも一苦労です。黄色い果実は、ぷ~んと硫黄のような強烈な臭いを放っています。恐る恐る実食してみると、口に入れる直前までその臭いが鼻を突きますが、実際に食べると、濃厚で甘く、カスタードクリームのような味がしてとても美味しかったです。部屋中にドリアンの臭いが充満してしまうほどですが、それが気にならないほど、食べ始めると止まらなくなります。
皆さんもドリアンを見かけたら、ぜひチャレンジしてみてください。

次に私の活動内容について紹介させていただきます。
私はインドネシアの首都から飛行機で1時間ほどの場所に位置する、国立スラカルタ スハルソ総合センターという施設で、障害のある方や経済的に困窮している方、孤児、虐待を受けた児童など、さまざまな立場の社会的弱者と関わる仕事(ソーシャルワーカー)をしていました。
ソーシャルワーカーとは、福祉等に関する専門知識を活かし、社会生活に困難や支障のある人々の相談に乗ったり、社会的支援を行ったりする仕事です。簡単に言うと、福祉の専門職です。
初めて派遣されたソーシャルワーカー隊員として、配属先の組織体制の理解から始まり、同僚との関係性構築、私に対する活動ニーズの把握などを行いました。
インドネシアの福祉現場で必要だと感じたことについて同僚に提案したり、利用者にとって有用だと思えるワークを行ったりしました。2年間の活動の中で、私は以下の2つの活動に力を入れました。
1.心理に関するワーク
2.カウンセリング
まず、1.心理に関するワークについてですが、私の配属先では、毎週1回、心理に関するクラスが開かれています。良い生活習慣やメンタルヘルスについて、職員が講義形式で授業していますが、利用者の反応はあまり良くありませんでした。多くの利用者がスマートフォンを触っていたり、非常に退屈そうにしていたりする様子が見受けられました。内容も難しいものが多く、知的障害のある方などは全く理解していないようでした。
そこで、私は利用者が積極的に参加できるよう、授業の内容を再構成しました。身体障害、精神障害、知的障害など、さまざまな障害特性を抱えた利用者に理解してもらいやすい授業を考案しました。「マインドフルネス」「自己肯定感」「ストレングス」「傾聴力」「アンガーマネジメント」「目標設定の大切さ」など、日常生活に役立つ内容について、30人以上の利用者を前にワークショップを開催しました。難しい言葉については同僚に通訳してもらいながら、週1回のクラスを実施しました。

次に、2.カウンセリングについてですが、現場では、ソーシャルワーカーが利用者と直接面談することなく、書類上での情報だけで支援内容を決定していることが多く見受けられました。私が利用者の情報について担当のソーシャルワーカーに確認した際も、「わからない」「知らない」という回答が多く、ソーシャルワーカーによるカウンセリングやヒアリングが不足していると感じました。
そのため、私は利用者と定期的にカウンセリングを行うことにしました。これにより、利用者の興味や関心を聞き出し、長所を伸ばすための取り組みや、日常生活の困りごとに対する改善策について一緒に考え、助言を行いました。特に問題行動が見られる利用者には、頻繁にカウンセリングを行い、精神面でのサポートを強化しました。
また、利用者の特技を見つけ、それを伸ばすための課題を一緒に設定し、取り組んでもらうことで、自己肯定感を高める手助けをしました。
同時に、定期面談の必要性について同僚に理解してもらえるよう努め、現場での支援体制の改善を目指しました。

言語の壁はもちろんのこと、福祉に関する考え方の違いも多く、精神的に苦しい時期もありました。そのとき、支えになってくれたのはインドネシアの人々でした。私は「アヤムバカール」という鶏肉を甘辛いタレで焼いた料理が大好きで、家の近くにあるレストランに足しげく通っていました。そこで出会った店員のニコさんには、本当にお世話になりました。
ニコさんは日本語を少し話すことができ、いつも「ケンさん、何食べる?」と片言の日本語で声をかけてくれました。私が落ち込んでいるときには、「ケンさん、大丈夫?」と気にかけてくれました。
普段の店内BGMはインドネシアの伝統的な曲が流れていますが、私に元気がないことを察すると、日本語の曲をかけてくれます。AKB48の「365日の紙飛行機」をかけ、ニコさん自身も陽気に歌っています。聴いているうちに、私の心は少し軽くなっていきました。「頑張ってください」とお会計の際、優しく声をかけてもらったおかげで、もう少しだけ頑張ろうと思うことができました。

また同僚のトゥティさんは20代の頃に数か月間オーストラリアに留学していた経験があり、異国で生活する大変さを理解してくれていました。「ケンさん、無理をしないでね。リラックスして過ごせばいいから。大丈夫、大丈夫」と何度も励ましてくれました。私の活動がうまくいかないときにも、「ケンさんが頑張っているのはよくわかっているからね」と温かい言葉をかけてくれ、心理に関するワークを見学するたびに「すごいね」と褒めてくれました。彼女の支えのおかげで、自信を失いかけていた私を再び奮い立たせることができました。

活動以外にも、断水が続いたり、体調不良で入院したりと苦しい経験もたくさんしましたが、それも今では良い思い出となり、自分を一回り成長させてくれた出来事だとポジティブに捉えています。
海外で一から人間関係を築き、活動を進めていく中で、日本でのコンフォートゾーン(ストレスのない快適な環境)を飛び出し、協力隊員としての生活が始まりました。この2年間が経過し、インドネシアは私の新たなコンフォートゾーンとなりました。
障害のある方や社会的に脆弱な立場にいる方々に密接に接し、利用者に最も良い支援を考え、実践してきた経験を通じて、私は日本でも「利用者ファースト」の福祉を実践していきたいと考えています。
利用者それぞれが持っている能力に気づいてもらい、その能力を伸ばせるよう働きかけていきます。今、利用者に何が必要で、どのようなケアが求められるのかを常に考え、利用者の自立を支援していきたいと思います。ソーシャルワークの仕事には正解がなく、一朝一夕に結果が出るものではありません。それはとても難しく、奥深いものです。これからも迷いながらもソーシャルワーカーとしての経験を積み、成長していきたいと思っています。

振り返ると、インドネシアでの2年間は、私にとって非常に貴重な経験でした。最初は何を話しているのかほとんど理解できない状況から始まり、同僚、利用者との対話を重ねる中で、少しずつ相互理解が深まっていく過程は決して簡単ではありませんでしたが、それが自分への自信にもつながりました。この活動を通じて、私は福祉に対する深い理解と、利用者との信頼関係を築く重要性を学びました。
今後は、インドネシアで得た経験を活かし、日本でもより多くの利用者の支援に貢献できるよう、努力していきます。これからもさまざまな困難に直面することがあるかもしれませんが、あのとき支えてくれたインドネシアの人々のように、利用者に温かく寄り添い、心から支えられるソーシャルワーカーであり続けたいと思っています。(以上)
市長表敬訪問
令和6年11月21日、JICA隊員としてインドネシアで任務を終えた伏見さんが松本市長を表敬訪問されました。当日はインドネシアの正装「バティック」も披露して下さいました。伏見さんは本市の職員でもあり、今後はインドネシアでの経験も生かしながら引き続き仕事に取り組んでいきたいと抱負を述べられました。令和7年度からは小学校を中心に出前授業を通じて貴重な体験を紹介いただく予定です。
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