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人権コラム3

辞書に見る女性への偏見・蔑視

標準的な国語辞典、国民的辞書と呼ばれている「広辞苑」において、女性に対する偏見と蔑視感が典型的に示されている事例のいくつかを、遠藤織枝さんの研究「国語辞典に見る女性への偏見、蔑視」〔井出祥子編著『ことばに見る女性―ちょっと待って、その言葉―』(財)東京女性財団.1998年〕を中心にして考えてみましょう。

 まず、語の解釈(定義)で問題があるものとして、「男」と「女」という語についてみますと、次のようになっています
【男】A)1人間の性別の一つで、女でない方。男子。男性。 (1)若くして盛りの男性。(2)年齢に関せず一般 に、 男性。(3)成人男子。元服して一人前と認められる男性。(4)強くしっかりしているなど男性の特質を備えた男子。「――なら泣き言を言うな」。(5)むすこ

【女】A)1人間の性別の一つで、 子を産み得る器官をそなえている方。女子。 (1)年齢に関せず一般に、 女性。(2)成年女子。成熟して性的特徴があらわれた女性。(3)天性やさしさとか、 煮えきらない、 激しくないとかいう通有性に着目していう場合の、 女性。「――のくさったような」
などと記述されています。

 次に、定義と関連しても一部あげましたが、用例の内容からみた問題点としては、
 【推して知るべし】考えてみればすぐ分かる。簡単に推量できる。「男だって無理なのだから、女子供は――だ」
などのほか、

  • 男を下げる ・それこそ男だ ・陰険な男
  • ようすのいい男 ・筋骨のたくましい男

 など、その男自身がどういう人物か、どういう状態なのかを表す、男が主体となっている例文が多いのに対して、

  • 女にあまい ・女にのぼせる ・女をもてあそぶ
  • 女にもてる ・女にみつぐ

  など男の側からみた「女」が描き出されています。
 女を主体的にみたものとしては、

  • いさましい女だ ・女3人寄ればかしましい
  • うつり気な女 ・女だてらに

のようなものがあるが、男の場合の例文と比べてわずかしかないし、質的にも女を積極的に評価しようとしたものではありません。いずれにせよ、ここでは
  (男が)女に・・・、(男が)女を・・・
の文型のなかで使われる「女」が多く、ことばとしては「女」を用いていても表現の主体は「男」にあり、「女」は「男」の対象物としての役割しか与えられていないことに注意しなければなりません。長い歴史において「女」がおかれてきた社会での位 置づけが見事に映されているとしか言いようがないでしょう。

 「女」と「男」の場合と同様に、「彼」と「彼女」の関係についても、

  • 彼の政治的手腕を買う ・彼のはたらきに負うところが大きい
  • 彼は私を避けている ・失敗が彼の薬になればよいが
  • 彼は国民の代表というにたる

などの文例があげられているのに対して、「彼女」の方は、

  • 彼は彼女にべったりだ ・彼女をみそこなった
  • この色は彼女によくうつる ・彼女にすっかりまいっている

というように、「彼」は評価の高い有能な人物像が多くなっているのに対して「彼女」は主体性のない対象物としての人物で、「彼女」自身の動作・行動や状態を表すような例文は少ないようです。

 このように、全般的に、「男」の方を絶えず持ち上げ、 「女」をおとしめる傾向が顕著であり、男女のどちらも人間としては、現実にはよい面 もあれば悪い面もあり、美点も欠点も持ち合わせているという現実を、辞書の用例にも反映するべきではないでしょうか。

差別語・差別表現の普及には社会の権力構造が密接に関わっています。なぜなら、自分の意見を大勢に話せる人、活字にして出版できる人、具体的には、 マスメディア、辞書編纂者、教科書執筆者など「ことばの特権階級」は社会で影響力のある人たちと重なっているからです。そして、社会では、権力のある人の発言や活字ほど注目され、受け入れられ、保存される傾向にあります。 たとえば、中村桃子はその著書で、
 「大切なのは何を言ったかではなく、誰が言ったかである。マスメディアはことばを普及させ、教科書はことばを規範化し、辞書は「お墨付き」を与える。これらの人びとは誰の発言を記録するか、普及させるか、保存するかをふるいにかける特権を有している。だから、女が「ことばの特権階級」に入ることは大変重要なのだ。」 〔中村桃子「“ことば”の力」(井出祥子編著:前掲書54ページ)〕 と指摘しています。
 女性蔑視語が今なお存続し続けているのは、過去において(これまで)女性は「ことばの特権階級」ではなかったという私たちの社会のありようを反映しているといってよいでしょう。

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